Insta360は、同社の新製品「Luna Ultra」を巡るDJIからの特許侵害訴訟に対し、5件の米国特許を主張する反訴を提起しました。これにより、民生用イメージング分野で長年競合してきた両社の対立は米国を舞台とした法廷闘争へと発展し、Insta360の最重要市場における「Luna Ultra」の販売継続がこの訴訟の結果に大きく左右されることになります。

特許紛争の経緯と両社の主張
今回の法廷闘争は、Insta360が初の本格的なハンドヘルドジンバルカメラ「Luna Ultra」を米国で発売した直後に勃発しました。この製品は、DJIが長年市場をリードしてきた「Osmo Pocket」シリーズに直接対抗するものです。
DJIによる初期訴訟の提起
「Luna Ultra」の発売日と同日、DJIはテキサス州東部地区連邦地方裁判所に2件の特許侵害訴訟を提起しました。DJIは、Insta360の「Luna Ultra」および今後発売予定の「Luna Pro」が、自社が「Osmo Pocket」で確立した製品アーキテクチャに基づいていると主張しています。具体的には、長いハンドヘルド本体、回転式ディスプレイ、スクロールホイールを備えた操作部、ジンバルアームの接続部といったデザイン要素が、DJIの特許を侵害していると指摘しています。
DJIはこれらの訴訟を通じて、Lunaシリーズの米国市場からの完全排除を目的とした恒久的な差止命令に加え、損害賠償、利益の返還、さらに「故意の侵害」に対する増額損害賠償を求めています。この迅速な動きから、DJIはInsta360が「Luna Ultra」を公開デモしたNABショーの時点から訴訟準備を進めていたと推測されます。
Insta360による反訴の内容
DJIの訴訟提起からわずか2日後、Insta360は2件の反訴で応じました。Insta360は、ジンバルおよび360度カメラ技術に関連する5件の実用新案特許をDJIが侵害していると主張しています。これらの特許は、ジンバル安定化、ジンバル方向制御、カメラのスムーズな安定化、テレメトリーオーバーレイ、パノラマ動画の安定化といった技術をカバーしています。
Insta360は、DJIの主要製品である「Osmo Pocket」シリーズ、RoninおよびRSジンバルシリーズ、Osmo Mobileシリーズ、そして「Osmo 360」といった製品群にこれらの侵害された技術が組み込まれていると指摘しています。特に「Osmo 360」への言及は、Insta360が歴史的に強みを持つパノラマカメラ分野へのDJIの参入に対する意図的な牽制と見られます。

米国市場の重要性とInsta360の反論
今回の紛争の背景には、米国市場における両社の戦略的な利害関係があります。DJIの新型ポケットカメラ(未発表の「Osmo Pocket 4P」など)は現在米国で販売されておらず、Insta360は「Luna Ultra」でこの重要な市場を独占できる状況にありました。もし米国で「Luna Ultra」に対する差し止め命令が出れば、Insta360のこの優位性は失われることになります。
Insta360の創業者であるJK Liu氏は、DJIの侵害主張を断固として否定し、「Luna Ultra」が2020年から独自に研究開発された成果であり、競合他社の製品への反応ではないと強調しています。同社は、これまでの「ONE R」や「Linkシリーズウェブカメラ」、「Flowシリーズジンバル」といった製品が、現在の技術とデザインの方向性を形作ってきたと説明しています。Liu氏は、DJIが「Luna Ultra」の発売と同日に訴訟を起こしたことは、競争力のある製品からの競争を恐れている証拠だと述べています。
激化する業界の特許紛争
DJIとInsta360の法廷での対立は今回が初めてではありません。2026年3月には、DJIが中国でInsta360を提訴しており、ドローンの飛行制御、構造設計、画像処理に関する6つの特許が争点となっています。この訴訟は、DJIが初の360度FPVドローン「Avata 360」を投入する直前に表面化しました。
両社は、360度カメラ市場(DJIの「Osmo 360」対Insta360の「X5」)、小型カメラ市場(DJIの「Osmo Nano」対Insta360の「GO Ultra」)、ドローン市場(DJIの「Avata 360」対Insta360の「Antigravity」)など、あらゆるカテゴリーで競争を激化させています。

この市場における特許訴訟は構造的な特徴となっており、今年初めにはGoProがInsta360に対する特許訴訟で敗訴しています。この判決は旧型で生産終了した「Ace」シリーズモデルにのみ適用され、Insta360の現行ラインナップは販売を継続しました。この傾向は、米国の裁判所が人気カメラの販売停止に慎重な姿勢を示していることを示唆しており、DJIの差し止め請求に対する期待を和らげる可能性もあります。
今後の見通しとユーザーへの影響
Insta360によると、「Luna Ultra」に対する消費者の初期反応は非常に好調で、北米では発売から24時間以内にAmazon米国サイトのビデオカメラ部門で売上1位を記録しました。同社は、今後も製品を世界中のクリエイターに提供しつつ、自社の知的財産権ポートフォリオを守ることに注力するとしています。
現時点では、「Luna Ultra」は米国で引き続き販売されており、仮に恒久的な差し止め命令が下されるとしても、それは長期にわたる法的手続きを経た後のこととなるでしょう。より重要なのは、Insta360の反訴が、裁判所の判決ではなく、両社間のクロスライセンスによる和解へと紛争全体を導く可能性です。これは過去にも同様の紛争が終結した際の典型的な結末であり、両社が法的な戦略ではなく、製品そのもので競争に戻れるようになることが期待されます。
まとめ
Insta360とDJIの特許紛争は、民生用イメージング業界における技術革新と知的財産権保護の重要性を浮き彫りにしています。両社は互いのコアビジネス領域に参入し、競争を激化させており、今回の米国での法廷闘争はその象徴と言えるでしょう。最終的な決着がどのように下されるかは不透明ですが、クロスライセンスによる和解が最も現実的な選択肢となる可能性も考えられます。今後の法廷の動向が、両社の製品戦略、ひいては市場全体に与える影響に注目が集まります。
情報元:CineD

