StripeとAirwallex、かつての買収交渉から激化するグローバル決済市場の競合

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フィンテック業界の巨人Stripeと、急成長を遂げるAirwallex。この二社は、かつてStripeがAirwallexの買収を提案するほど接近した関係にありましたが、現在はグローバル決済市場で激しい競合を繰り広げています。Airwallexの創業者ジャック・チャン氏がStripeの12億ドルという巨額の買収提案を拒否し、独自の道を歩んだ決断は、今日のフィンテック業界の勢力図を大きく変える可能性を秘めています。本稿では、両社の戦略、成長の背景、そしてこの競争がユーザーや業界全体にどのような影響を与えるのかを深掘りします。

StripeとAirwallexのロゴが並び、グローバル決済市場での競合を示唆するイメージ

買収提案から競合へ:StripeとAirwallexの転換点

物語は2018年に遡ります。当時、創業からわずか3年半のAirwallexに対し、Stripeは12億ドルでの買収を提案しました。当時のAirwallexの年間収益は約200万ドル。この提案は、収益の約600倍という破格の評価であり、シリコンバレーの有力投資家であるセコイアのマイケル・モリッツ氏も、Stripeの共同創業者パトリック・コリソン氏を「世代を代表する起業家」と称し、買収のメリットを力説しました。

しかし、Airwallexの創業者ジャック・チャン氏は、2週間にわたる熟考の末、この提案を拒否します。彼の心にあったのは、「世界中のあらゆるビジネスが、まるで現地企業のようにどこでも事業を展開できる金融インフラを構築する」という、まだ未完成のビジョンでした。この決断は、彼の起業家としての夢と、共同創業者2名の反対意見に後押しされたものでした。

そして現在、チャン氏の決断は驚くほど先見の明があったことが証明されています。Airwallexは年間収益13億ドル以上、年間取引量3000億ドル近くに達し、前年比85%という驚異的な成長を続けています。この飛躍的な成長は、Stripeとの直接的な競合へと発展し、グローバル決済市場における新たな局面を切り開いています。

「最大の抵抗の道」:Airwallex独自のグローバル金融インフラ

Airwallexの成功の鍵は、チャン氏が「最大の抵抗の道(path of maximum resistance)」と呼ぶ戦略にあります。これは、困難な道を選び、地道に独自のインフラを構築していくことを意味します。その最たる例が、世界各地での金融ライセンスの取得です。

Airwallexは現在、約50の市場で90近い金融ライセンスを保有しています。これは、Stripeが保有するライセンス数の約2倍に相当するとチャン氏は見積もっています。これらのライセンス取得は容易な道のりではありませんでした。例えば、日本でのライセンス取得には7年もの歳月を要し、一部の新興市場では、中央銀行がもはや発行していないライセンスを持つ「シェルカンパニー」を買収し、その上で技術基盤を完全に再構築する必要がありました。

この膨大な時間と労力をかけたライセンス取得は、単なる規制遵守以上の意味を持ちます。例えば、日本ではStripeやSquareが決済処理後すぐに資金をマーチャントの銀行口座に送金する必要があるのに対し、Airwallexは送金事業者ライセンスを持つことで、プラットフォーム内で資金を保持できます。これにより、顧客はAirwallexのエコシステム内で銀行口座を発行し、カードを発行し、資金を支出することが可能になります。これは、資金がプラットフォーム外に出ることなく、一貫した金融サービスを提供できることを意味します。

この独自のインフラは、特にグローバルビジネスを展開する企業にとって大きなメリットをもたらします。例えば、米国のマーチャントがオーストラリアドルで取引を決済する場合、Stripeのようなプロセッサーが通常請求する2〜3%の為替手数料を回避できます。さらに、現地通貨の残高をそのまま現地のベンダーへの支払い、給与計算、デジタルマーケティング費用などに利用でき、銀行間レートで取引が可能です。これにより、企業は物理的に現地法人を設立することなく、世界中で現地企業のように事業を運営できるようになります。

チャン氏は、他社のインフラの上に構築するだけではスケーラブルではないと指摘します。エンドツーエンドの決済ワークフローを自社でコントロールすることで、問題発生時のデータアクセスや、新しい製品をクリーンに拡張できる柔軟性が生まれるのです。この「最大の抵抗の道」が、Airwallexの強固な競争優位性を築き上げています。

StripeとAirwallex、異なる顧客層と戦略の交錯

これまでStripeとAirwallexは、主に異なる地域で異なる顧客層をターゲットとしてきました。Stripeは、米国の開発者が新しいビジネスを始める際のデフォルトの決済プラットフォームとして、その顧客獲得を推進してきました。一方、Airwallexは、オーストラリアや東南アジアのCFOオフィス、財務担当者、財務チームを主な顧客として、その地位を確立してきました。

しかし、この状況は変化しつつあります。Stripeが国際市場への進出を深める一方で、Airwallexも米国市場への本格的な参入を開始しており、両社の事業領域の重複が拡大しています。Airwallexの顧客の90%以上がまずビジネスアカウント製品を利用し、そこから決済や支出管理へとサービスを拡大しています。半数以上の顧客が複数の製品を利用していることからも、そのエコシステムへの定着度が伺えます。

Airwallexにとっての大きな課題は、Stripeがシリコンバレーの「優等生」として築き上げてきたブランド力と認知度です。Stripeの非公開株式は、テック業界全体で多くのミリオネアを生み出してきました。チャン氏も、AirwallexのブランドがまだStripeのレベルには達していないことを認めており、エンジニアや開発者の間で直感的に選ばれる存在になるための競争は、より困難であると考えています。

フィンテック業界の未来を占う評価額と成長性

両社の競争は、投資家からも注視されています。セコイアはAirwallexの初期投資家であり、Greenoaks Capitalは両社に投資しています。投資家は巨大な市場に賭けているとチャン氏は語りますが、両社の評価額には大きな差があります。

Stripeは2025年に1.9兆ドルの総決済量を処理し、2026年2月の入札では1590億ドルの評価額を付けられました。これは前年比74%増です。一方、Airwallexは2025年12月に80億ドルの評価額でした。評価額ではStripeの約20分の1ですが、チャン氏によれば、決済量はStripeの約6分の1に過ぎません。年間85%という高い成長率で、Airwallexは収益ギャップを評価額のギャップよりも速いペースで縮めています。市場がこの差にいつ気づくかは未知数ですが、チャン氏が3〜5年後と語るIPOは、この評価額の問いを公にするでしょう。

Airwallexは、AIを活用した自律型金融製品の展開も進めています。これは、単にデータを提供するだけでなく、実際に取引を実行する「エージェント」としての機能を持つものです。収益回収から財務管理、ベンダー支払い、経費精算に至るまで、10年以上にわたる企業金融スタック全体の金融データは、他の競合が一夜にして再現できない独自のトレーニングセットを形成しているとチャン氏は示唆しています。このデータ基盤が、今後の競争において強力な武器となるでしょう。

こんな企業におすすめ:StripeとAirwallexの選択肢

Stripeは、特にスタートアップや中小企業、開発者にとって、手軽に導入できる決済ソリューションとして依然として強力な選択肢です。シンプルで使いやすいAPIと広範なドキュメントは、迅速なサービス立ち上げを可能にします。一方、Airwallexは、複数の国で事業を展開する企業や、複雑な国際送金、為替管理、現地通貨での支出を効率化したい企業に最適です。独自の金融ライセンスとインフラにより、グローバルな財務オペレーションを大幅に簡素化し、コストを削減できる可能性を秘めています。どちらを選ぶかは、企業の規模、グローバル展開の度合い、そして求める金融サービスの深さによって異なります。

まとめ

StripeとAirwallexの競争は、グローバル決済市場の進化を象徴しています。かつての買収交渉を乗り越え、独自の「最大の抵抗の道」を歩んだAirwallexは、Stripeという巨人に真っ向から挑んでいます。金融ライセンスの取得と独自のインフラ構築に注力することで、Airwallexはグローバルビジネスを展開する企業に新たな価値を提供し、急速な成長を遂げています。

今後、両社がどのように市場シェアを争い、どのようなイノベーションを生み出していくのかは、フィンテック業界全体の動向を左右する重要な要素となるでしょう。Airwallexが掲げる2030年までに顧客100万人、年間収益200億ドルという野心的な目標、そしてAIを活用した次世代金融サービスの展開は、この競争をさらに加速させるに違いありません。この二大フィンテック企業の動向から目が離せません。

情報元:TechCrunch

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