映像および音楽制作の業界標準ツールを提供するAvid社が、オランダ・アムステルダムで開催される国際放送機器展「IBC 2025」にて、同社の主要製品ラインナップにAI機能を大規模に統合することを発表しました。
これにより、映像編集ソフト「Media Composer」、DAWソフト「Pro Tools」、そしてメディア管理プラットフォーム「MediaCentral」に、AIによる自動文字起こし、翻訳、ワークフローの自動化機能が直接組み込まれます。
ポストプロダクションの現場における面倒な作業を劇的に効率化する、待望のアップデートとなりそうです。
編集ツールに直接組み込まれる「AI文字起こし・翻訳」
今回のアップデートの最大の目玉は、Media Composer、Pro Tools、MediaCentralに内蔵されるスピーチtoテキスト(文字起こし)および翻訳機能です。
これまで外部のサービスやプラグインに頼ることが多かった文字起こし作業が、Avidツール内で完結できるようになります。
- Media Composerでの活用:
- 従来の「ScriptSync」や「PhraseFind」といった機能がAIによって大幅に強化されます。
- インタビューやドキュメンタリー素材の文字起こしを自動で行い、テキストを検索するだけで該当のビデオクリップを瞬時に探し出す「テキストベース編集」が、より高速かつ正確になります。
- Pro Toolsでの活用:
- オーディオファイル内の会話を自動でテキスト化。多言語プロジェクトにおける音声の検索や編集作業が飛躍的に効率化されます。
- オーディオファイル内の会話を自動でテキスト化。多言語プロジェクトにおける音声の検索や編集作業が飛躍的に効率化されます。
- 多言語ワークフローへの対応:
- 内蔵の翻訳機能により、グローバルな映像制作における言語の壁を取り払います。例えば、海外ロケ素材のインタビューを日本語のテキストで確認しながら編集を進める、といったワークフローが可能になります。
面倒な手作業を省略する「自動化(オートメーション)」
今回の発表では、AIによる「自動化」も大きな柱となっています。
- Pro Tools Scripting SDK:
- 新たに提供されるスクリプティングSDKにより、Pro Tools内での定型的な手作業を自動化できます。
セッション管理や編集における反復作業をカスタムスクリプトで処理し、オーディオエンジニアはよりクリエイティブな作業に集中できるようになります。
- 新たに提供されるスクリプティングSDKにより、Pro Tools内での定型的な手作業を自動化できます。
- MediaCentralのルールエンジン:
- 放送局向けのMediaCentralでは、コンテンツの処理とスケジューリングを自動化するエンジンが統合され、ニュース制作のスピードと効率を向上させます。
パートナー連携でAIエコシステムを拡大
Avidは自社開発のAI機能に加え、サードパーティ製の優れたAIツールをMedia Composerのタイムラインに直接統合できるパートナーシップも拡大しています。
- Quickture: 自然言語(話し言葉)で指示するだけで、AIが文字起こしとシーケンス作成を代行。
- Flawless: AIによるリップシンク(口元の動きを合わせる)ツール。映像のローカライズやセリフの修正を簡単に行えます。
- Acclaim Audio: AIによる音声補正ツール。ノイズ除去や音量レベリングなどをMedia Composer内で直接実行できます。
ポストプロダクションの未来を変える一手
Avidは、独立したAI製品を新たに発売するのではなく、長年クリエイターに信頼されてきた既存のツールに「インテリジェントな自動化」を埋め込むアプローチを選びました。
これにより、編集者やオーディオエンジニアは使い慣れた環境のまま、AIの恩恵を最大限に受けることができます。文字起こしや素材管理といった時間のかかる作業から解放され、本来の創造的な業務にさらに時間を費やせるようになるでしょう。
今回の発表は、日本の映像・音楽業界にとっても、制作ワークフローを根本から見直す大きなきっかけとなりそうです。