消費者の「修理する権利」が世界的に高まる中、米国の消費者擁護団体US PIRG Education Fundが発表した最新レポートは、主要メーカーの製品修理可能性に厳しい評価を下しました。特にAppleとLenovoのノートPCは、分解のしやすさや部品の入手性において最低レベルと指摘され、その設計思想が改めて問われています。このレポートは、単なる技術的な評価に留まらず、消費者の経済的負担、環境問題、そしてメーカーの社会的責任といった多角的な側面を浮き彫りにしています。
現代のガジェットは高性能化の一途を辿る一方で、一度故障すると修理が困難であったり、高額な費用がかかったりするケースが少なくありません。今回のレポートは、そうした現状に一石を投じるものであり、製品選びの新たな基準を消費者に提示するとともに、メーカーに対して持続可能な製品設計への転換を促す重要なメッセージとなっています。
「修理可能性」評価の基準とは?フランス指数とPIRGの独自視点
US PIRG Education Fundが今回発表した「Failing the Fix (2026)」レポートは、フランスで義務付けられている「修理可能性指数」を主要な評価基準として採用しています。この指数は、製品の修理のしやすさを消費者に示すためのもので、以下の5つの要素に基づいてスコアが算出されます。
- 製品の分解のしやすさ
- 修理ドキュメント(マニュアルやサービスガイド)の入手可能性
- スペアパーツの入手可能性
- スペアパーツの価格(製品全体のコストに対する割合)
- 製品固有の基準
PIRGは、このフランスの指数をベースとしつつも、特に「製品の物理的な分解のしやすさ」に重きを置いて評価を行いました。これは、消費者が「修理スコア」と聞いて一般的に期待する要素が、実際に製品を分解して修理できるかどうかにあるという考えに基づいています。
さらに、レポートではメーカーの「修理する権利」に対する姿勢も評価に加味されています。具体的には、米国の「修理する権利」法案に反対する業界団体(TechNetやConsumer Technology Association)に加盟しているメーカーは0.5ポイント減点され、逆に過去1年間に「修理する権利」法案を支持する証言を行ったメーカーは0.25ポイント加点されるという独自の基準が設けられました。この減点措置は、AcerとMotorolaを除くほとんどのメーカーに適用されており、メーカーのロビー活動が評価に影響を与えるという点で注目されます。
ノートPC部門:AppleとLenovoが低評価の理由
今回のレポートで、ノートPCの修理可能性において最も低い評価を受けたのはAppleで、C-という結果でした。次いでLenovoもC-評価と、修理のしにくさが際立つ結果となっています。

Appleの低評価:分解の困難さと業界団体加盟
Appleが低評価となった主な理由は、その製品の「分解のしやすさ」が極めて低い点にあります。MacBookシリーズは、接着剤を多用した一体型設計や特殊なネジの使用により、一般ユーザーや独立修理業者が内部にアクセスすることが非常に困難です。バッテリーやキーボードといった消耗部品の交換でさえ、専門的な知識と特殊な工具が必要となるケースが多く、修理のハードルを上げています。
加えて、AppleはTechNetとCTAの両業界団体に加盟しているため、評価で満点の1ポイントを減点されています。これは、同社が「修理する権利」法案に反対する活動を間接的に支援していると見なされたためです。
Lenovoの低評価:フランス法規への不遵守と改善の遅れ
LenovoもAppleと同様に、分解のしやすさで低いスコアを獲得しました。さらに、フランスで義務付けられている修理スコアのPDFを、一部の最新ノートPCで適切に掲載していなかったため、0.5ポイントの減点を受けています。Lenovoは昨年のレポートでも同様の理由でF評価を受けており、当時の広報担当者は「ウェブサイトの技術的な問題」と説明していましたが、1年以上が経過してもこの問題が完全に解決されていないことが今回のレポートで指摘されています。
このことは、Lenovoがフランスの消費者保護法規への対応に苦慮しているだけでなく、修理可能性に関する情報開示の透明性にも課題を抱えていることを示唆しています。
Asusの健闘と業界全体の傾向
一方で、Asusは3年連続で最も高い評価を獲得し、修理可能性において優れた取り組みを見せています。これは、Asusが製品設計においてモジュール性や標準部品の採用を重視している可能性を示唆しており、消費者が比較的容易に修理や部品交換を行える設計思想が評価されたものと考えられます。
レポートは、全体としてノートPCの修理可能性は「停滞している」と結論付けていますが、Nathan Proctor氏(US PIRG Education Fundの「修理する権利」キャンペーン担当シニアディレクター)は、部品、ツール、情報へのアクセスは改善傾向にあると指摘しています。また、AppleのMacBook Neoのように、より修理しやすい設計を目指すメーカーの努力も評価されており、今後の製品改善に期待が寄せられます。
スマートフォン部門:AppleとSamsungの課題、Motorolaの健闘
スマートフォンの修理可能性評価では、欧州委員会が2025年6月に導入した新しい評価システム「EPREL(European Product Registry for Energy Labelling)」が基準として用いられました。EPRELは以下の6つの要素に基づいてスマートフォンの修理可能性を評価します。
- 分解の深さ
- 留め具の種類
- 使用される工具
- スペアパーツの入手可能性
- ソフトウェアアップデートの期間
- 修理情報の提供

AppleとSamsungの低評価:アップデート期間と部品ペアリング
スマートフォン部門でも、AppleとSamsungは低い評価に留まりました。その理由の一つとして、両社の製品が「5年以上のソフトウェアアップデートを保証していない」点が挙げられています。EPREL基準では、ソフトウェアの長期サポートも修理可能性の重要な要素と見なされており、デバイスの寿命を延ばす上で不可欠であるという考えが反映されています。
また、Appleは「部品ペアリング」と呼ばれる慣行や、盗難防止機能である「Activation Lock」を個々の部品にまで拡大している点が問題視されています。部品ペアリングとは、特定の部品がデバイス本体と暗号化されたソフトウェアチェックによって紐付けられ、正規の部品であっても認証なしには機能しないようにする仕組みです。これにより、独立修理業者や一般ユーザーが部品を交換することが極めて困難になり、修理エコシステムから大量の機能部品が排除される可能性が指摘されています。

しかし、Appleにも進展が見られます。部品ペアリングからの脱却の動きや、ユーザーが自分で修理できる「Repair Assistant」の導入は、修理可能性向上への前向きな一歩として評価されています。それでも、サードパーティ製のFace ID交換が依然として機能しないなど、課題は残されています。
Motorolaの健闘と業界全体の課題
Lenovo傘下のMotorolaブランドは、スマートフォン部門で最高の評価を獲得しました。これは、MotorolaがEPREL基準の各項目において、比較的優れたパフォーマンスを示したことを意味します。
レポートは、部品ペアリングやソフトウェアによる制限が、Appleに限らず業界全体に広がる問題であると指摘しています。これらの慣行は、消費者が自分のデバイスを自由に修理する権利を侵害し、独立修理市場の健全な発展を阻害する要因となっています。
消費者が直面する「修理の壁」とメーカーの責任
今回のUS PIRGレポートが浮き彫りにしたのは、単に特定のメーカーの製品が修理しにくいという事実だけではありません。それは、現代の消費者が直面する「修理の壁」がいかに高く、それが社会全体にどのような影響を与えているかという、より大きな問題を示唆しています。
高額な修理費用と買い替えの強制
修理が困難な製品は、消費者に高額なメーカー公式修理サービスを利用させるか、あるいは故障した際に新品への買い替えを促すことになります。これは、消費者の経済的負担を増大させるだけでなく、製品のライフサイクルを短くし、結果として不必要な消費を助長します。特に、バッテリー交換のような比較的軽微な修理でさえ、専門業者に依頼せざるを得ない状況は、ユーザーの利便性を著しく損ねます。
電子廃棄物(E-waste)問題の深刻化
修理が容易であれば、製品の寿命は延び、電子廃棄物(E-waste)の発生量を削減できます。しかし、修理しにくい設計や部品ペアリングのような制限は、まだ使えるはずの部品やデバイスが修理不能となり、早期に廃棄される原因となります。これは、地球規模での環境問題であり、限られた資源の無駄遣いにも繋がります。メーカーには、製品の設計段階からリサイクルや修理のしやすさを考慮する「エコデザイン」の原則を導入する社会的責任が求められます。
独立修理市場の阻害と消費者の選択肢の制限
部品ペアリングや修理情報の非公開といった慣行は、独立した修理業者にとって大きな障壁となります。メーカーが部品やツール、修理マニュアルへのアクセスを制限することで、独立修理業者は正規の修理サービスと競争することが困難になり、結果として修理市場の競争が阻害されます。これは、消費者が修理サービスを選ぶ際の選択肢を狭め、修理費用が高止まりする原因にもなりかねません。
製品選びの新たな視点:修理可能性を重視するユーザーへ
今回のレポートは、製品の性能やデザインだけでなく、「修理可能性」という新たな視点からガジェットを選ぶことの重要性を教えてくれます。特に以下のようなユーザーにとって、修理可能性は製品選びの重要な基準となるでしょう。
- 長期的にデバイスを使いたいユーザー:数年おきに買い替えるのではなく、一つのデバイスを長く大切に使いたいと考える人にとって、修理のしやすさは必須条件です。
- 環境負荷を減らしたいユーザー:電子廃棄物の削減に貢献したい、持続可能な消費を心がけたいという環境意識の高いユーザーは、修理しやすい製品を選ぶことでその意思を表明できます。
- 自分で修理したい、または安価に修理したいユーザー:簡単な故障であれば自分で直したい、あるいはメーカー以外の修理業者に依頼して費用を抑えたいと考える人にとって、部品の入手性や分解のしやすさは極めて重要です。
メーカーが修理可能性を改善することは、企業の社会的責任(CSR)の観点からも重要であり、消費者の支持を得る上で不可欠です。消費者の意識が高まり、法規制が強化されることで、メーカーはより修理しやすい製品を開発する動機付けを得るでしょう。今回のレポートは、そうした変化を促す強力なツールとなるはずです。
まとめ:持続可能なガジェット社会への道
US PIRG Education Fundの最新レポートは、AppleやLenovoといった大手メーカーの製品が抱える修理可能性の課題を明確に示しました。特にノートPCとスマートフォンの両分野で、分解の困難さ、部品ペアリング、情報開示の不足といった問題が指摘されており、消費者の「修理する権利」が依然として十分に保障されていない現状が浮き彫りになっています。
しかし、AppleのMacBook Neoにおける修理しやすい設計への試みや、Repair Assistantの導入、そしてMotorolaのスマートフォンにおける健闘など、改善に向けた動きも見られます。これは、フランスの修理可能性指数のような法規制や、消費者の意識の高まりが、メーカーの製品設計に確実に影響を与え始めている証拠と言えるでしょう。
持続可能な社会の実現には、メーカーが製品のライフサイクル全体を考慮した設計を行うこと、消費者が修理可能性を重視して製品を選ぶこと、そして政府が適切な法規制を整備すること、これら三者の協力が不可欠です。今回のレポートが、より修理しやすく、長く使えるガジェットが当たり前になる未来への一歩となることを期待します。
情報元:Ars Technica

