アンゴラ高地の奥深くには、未だ科学的に確認されていない新種のゾウが生息していると噂されています。この謎に包まれたゾウの群れ、通称「ゴーストエレファント」を長年探し求める保護活動家で鳥類学者のスティーブ・ボイズ氏の旅を追ったドキュメンタリー映画『Ghost Elephants』が、ナショナルジオグラフィックとDisney+で公開されます。
鳥類学者がゾウを追う理由
鳥類学者であるボイズ氏が、なぜ遠隔地のゾウの探求に乗り出したのか、一見すると異例に思えるかもしれません。しかし、南アフリカで育った彼にとって、ナショナルジオグラフィック誌で読んだ探検家たちのように、野生の場所を探求することは幼い頃からの夢でした。特にゾウには幼い頃から魅了され、オカバンゴ・デルタでの博士課程の研究中には、ゾウがオウムの営巣環境を作り出す共生関係にあることを発見しました。
ボイズ氏は、映画監督のヴェルナー・ヘルツォーク氏と出会い、「人生の意味、思考の源、孤独の個人的経験、そしてゴーストエレファント」について語り合ったといいます。ヘルツォーク監督は、この出会いをきっかけに「白鯨モビー・ディックを追うような、予期せぬプロジェクトが緊急性を帯びて迫ってきた」と語り、このドキュメンタリーを「夢と想像力の探求」と表現しています。
夢と現実が交錯する探求
映画は、スミソニアン国立自然史博物館のロタンダから始まります。ここには、1959年から世界最大のゾウの剥製「ヘンリー」(通称「アンゴラの巨人」)が展示されています。ヘンリーは1955年にハンガリーのビッグゲームハンター、ヨゼフ・J・フェニョコヴィによって射殺されたゾウで、体高4メートル以上、体重約11トンという記録的な大きさでした。ボイズ氏は、このヘンリーがアンゴラ高地のゴーストエレファントと関連があるのではないかと考えていました。
ボイズ氏は、現代のカメラトラップなどの先進技術を使っても見つけられなかったゴーストエレファントを探すため、今回はコイサン族の熟練追跡者であるXui、Xui Dawid、Kobusの3人を招集し、アンゴラ高地への遠征に挑みます。彼らは「生命の源」と呼ばれるアンゴラ高地の水源地帯を目指し、車、バイク、そして最後は徒歩で、困難な道のりを進みました。
新種の確認と保護への提言
数ヶ月にわたる探検の末、ボイズ氏はゾウの糞便サンプルを採取し、ついに携帯電話でゴーストエレファントの姿を捉えることに成功します。皮膚サンプルを採取しようと試みましたが、ゾウの厚い皮膚に阻まれ、動物は逃げてしまいました。
これまでの遺伝子分析により、これらの遠隔地のゾウが実際に遺伝的に孤立した新種であることが確認され、さらにヘンリーの父親がゴーストエレファントであった可能性も示唆されています。ボイズ氏は、保護活動家として彼らの生存に深く懸念を抱いています。ドキュメンタリーには、1950年代にヘリコプターからゾウを乱獲する衝撃的な映像も含まれており、過去の乱獲が野生生物の個体群に与えた壊滅的な影響を浮き彫りにしています。
ゴーストエレファントの生息地が遠隔地でアクセスしにくいことが、これまで彼らを保護してきました。しかし、ボイズ氏は、保護区を設けて人間を排除する従来の西洋的なアプローチが最善ではないと考えています。彼は、現地の住民から学ぶべきだと主張します。彼らは独自の狩猟期間や聖地を持ち、武器を没収するなど、ゾウの生息地を密接に管理しているからです。「人々をゾウから引き離すという考えは、彼らにとって直感に反するものです。彼らは『私たちがいないとこの場所は完全に崩壊する』と考えています」とボイズ氏は語ります。彼は、現地の住民が「これらの景観の守護者、管理者としてそこに留まり、ゾウを保護し続ける」ことが最善の戦略だと感じています。
ボイズ氏の群れを記録する探求は続いており、昨年11月には5頭のオスゾウからサンプルを採取し、さらに多くのゾウの足跡を発見しています。「熟練の追跡者たちと働くことの恩恵は、ゾウを見なくてもそこにいるとわかることです」とボイズ氏は語り、今後も探求を続ける意向を示しています。
ドキュメンタリーと関連書籍
ドキュメンタリー映画『Ghost Elephants』は、2026年3月7日にナショナルジオグラフィックで初公開され、翌日にはDisney+でストリーミング配信が開始されます。また、関連書籍として『Okavango and the Source of Life: Exploring Africa’s Lost Headwaters』も出版されています。

