キヤノンT60:EFマウント時代に登場した最後のFDマウント一眼レフの真実

-

キヤノンT60とは?EFマウント時代に登場した異色のFD機

1990年に発売されたキヤノンT60は、FDマウントを採用したフィルム一眼レフカメラです。当時、キヤノンはすでにオートフォーカスに対応するEFマウントを1987年に導入しており、T60はEFマウント登場から3年後にリリースされたマニュアルフォーカス機という点で異彩を放っていました。

このカメラは主に海外市場からの強い要望に応える形で開発されたとされており、キヤノンの公式情報でも「海外市場の要望によって開発された機種」と明記されています。そのクラスは、エントリーモデルというよりも、ある程度のカメラ知識を持つユーザーを対象としたモデルと言えるでしょう。

OEMの背景とコシナ製説

キヤノンがOEMを選択した理由

T60の最大の特徴の一つは、その製造背景にあります。実はこのカメラはキヤノンが自社で製造したものではなく、コシナからのOEM供給品であると広く推測されています。キヤノンはこの事実について公式には言及していませんが、T60の細部を見ると、それまでのキヤノン製一眼レフとは異なる製造スタイルが見て取れます。

同様にコシナ製と言われるニコンFM10やオリンパスOM-2000などとの共通点も多く、ボディデザインも他のキヤノンTシリーズとは一線を画しています。筆者(大浦タケシ氏)は、当時キヤノンがEFマウントのカメラやレンズの開発・製造に全社を挙げて注力しており、FDマウントのカメラを新たに開発・製造する社内的な余裕がなかったため、ベースとなるカメラを製造していたコシナに製造を委託したのではないかと推測しています。

OEMに対する評価

OEMであることは、必ずしもネガティブな要素ではありません。むしろ、企業の柔軟な対応や製造コストの最適化といった観点からは合理的な判断と言えます。カメラ愛好家にとっては、異なるメーカーのブランドを冠した「兄弟モデル」との仕様やスタイルの違いを比較する楽しみもあり、興味深い存在です。

T60の主なスペックと特徴

T60の基本的なスペックを見ていきましょう。

  • 露出モード: 絞り優先AEとメータードマニュアルを搭載。
  • ファインダー: 赤いLEDによる露出表示は視認性が高く、絞り値は表示されないものの実用性は十分です。倍率0.86倍、視野率93%の光学ファインダーは、クラスを考慮すれば十分な性能です。コストを抑えられるペンタミラーではなく、贅沢なペンタプリズムを採用している点は特筆すべき魅力です。中央にはマイクロプリズムとスプリットを配したスクリーンマットが使われ、ピントのキレも比較的良好です。
  • シャッター: 最高シャッター速度は1/1000秒で、金属幕の縦走行電子制御式シャッターを採用しています。現代の基準からすると1/2000秒が欲しいところですが、当時のクラスとしては標準的でした。
  • 操作性: シャッターダイヤルは電源ON/OFFと露出モードの切り替えを兼ねており、シンプルで直感的に操作できます。フィルム巻き上げレバーの官能的なシェイプや、シャッターボタンにレリーズ用のネジ穴が切られているのも特徴です。
  • その他: フィルム巻き戻しレバーは質素な作りで、ISO感度ダイヤルは巻き戻しレバーと同軸に配置されています(ISO25〜ISO1600)。裏蓋を開けると、レール部を含め全体的にプラスチックが多用されており、フィルム感度を自動設定するDX接点もありません。シャッター音は電子制御式ながら大きく、外装のプラスチッキーな質感と合わせて、コストを意識した作りがうかがえます。

マウントは紛れもなくキヤノンFDマウントで、EFマウントのような電気的な接点はなく、絞り情報の伝達や駆動は全て機械式です。クイックリターンミラーは経年により「ミラー落ち」しやすいという難点も指摘されています。

筆者のT60との出会いとFDレンズの魅力

筆者がT60の存在を知ったのは、インターネットが普及し始めた1990年代後半のことでした。当時、海外の個人売買サイトでこのカメラを見つけ、円高の恩恵もあり手頃な価格で購入したそうです。この経験から、海外の中古品評価基準が日本とは異なることを実感したと語っています。

T60は、キヤノンが最後にリリースしたFDマウント一眼レフカメラです。現在、FDレンズは「オールドレンズ」として分類されますが、その描写性能はミラーレスカメラが主流となった現代においても十分に通用するものです。FDレンズを長く使い続けたいと願っていた当時の欧米ユーザーにとって、T60の存在は非常に価値のあるものだったと言えるでしょう。

合わせて読みたい  Nikon Zfシルバーエディションが正式発表

カテゴリー

Related Stories