ニューヨーク州において、不動産市場の透明性を高めるための画期的な法案が成立しました。2025年10月16日、キャシー・ホークル知事は、家主(大家)がAIやアルゴリズムを用いて住宅の家賃を設定することを禁止する法案(A1417 / S7882)に署名しました。
この新法は、近年問題視されている「アルゴリズムによる価格設定(Algorithmic Pricing)」が、家賃の高騰や市場の不公正な競争を助長しているとの懸念に対応するものです。
AIが家賃を吊り上げる?新法の背景にある懸念
近年、米国をはじめとする世界の不動産市場では、家主や物件管理会社が「価格設定アルゴリズム」や「データ分析サービス」を導入するケースが増加しています。
これらのソフトウェアは、競合他社の家賃データ、空室率、需要予測など、膨大な市場データをリアルタイムで分析し、物件の「最適な」家賃を算出・推奨します。一見すると効率的な経営手法に見えますが、複数の家主が同様のアルゴリズム(特定のデータ分析サービスなど)を利用することで、事実上の価格協定(談合)や競争の回避が発生しやすい状況が生まれていました。
結果として、アルゴリズムが市場全体の家賃水準を人為的につり上げているのではないか、という疑惑が強まっていました。これは、住宅コストの上昇に苦しむ多くの入居者にとって深刻な問題です。
ニューヨーク州 新法「A1417」の具体的な内容
今回成立した法案 A1417(一般事業法を改正)は、こうした状況に歯止めをかけるものです。
法案の核心は、家主や物件管理者が、他の家主(競争相手)と協調して価格を操作したり、競争を回避したりする目的で、ソフトウェアやデータ分析サービス、アルゴリズム装置を使用・ライセンス供与することを禁止する点にあります。
具体的には、以下のような行為が禁じられます。
- 非競争的な合意の促進: 複数の家主間で、家賃に関して競争しない(価格を下げない、足並みを揃えるなど)という合意を促進するアルゴリズムの使用。
- 調整機能の提供: 家主間に立って価格を調整する機能を持つソフトウェアやデータ分析サービスを運営すること。
この法律は、家主が市場データを参考にすること自体を禁じるものではありませんが、アルゴリズムを介した「共謀」や「反競争的行為」を明確に違法と位置づけました。
なぜこの法律が重要なのか?
この新法は、テクノロジーの進化がもたらす新たな形の市場操作に対する、行政の重要な一歩となります。AIやアルゴリズムは多くの利便性をもたらす一方で、消費者が知らないうちに不利益を被るリスクもはらんでいます。
ニューヨーク州は、特に住宅市場という生活の基盤となる領域において、アルゴリズムが公正な競争を歪めることを許さないという明確な姿勢を示しました。
この法律の成立により、ニューヨーク州の住宅市場における家賃設定の透明性が高まり、入居者がアルゴリズムによる不当な家賃高騰から保護されることが期待されます。