トランプ大統領の関税政策が、アメリカの図書館を静かに蝕む

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トランプ大統領が導入した広範な関税政策。その影響は製造業やハイテク産業だけに留まりませんでした。今、一見すると無関係に思えるアメリカの「図書館」が、深刻な問題に直面していると、米メディアのGizmodoが報じています。

それは、新しい本が購入できない、といった単純な話ではありません。世界中の知のネットワークを支える「図書館間相互貸借」という根幹のシステムが、関税の混乱によって麻痺状態に陥っているのです。


返ってこない本、届かない知識

図書館の重要な役割の一つに、他の図書館と資料を貸し借りする「図書館間相互貸借(Interlibrary Loan)」があります。これにより、利用者は自分の地域の図書館にない専門書や希少な資料でも、国内外の提携図書館から取り寄せて閲覧することができます。このシステムは、長年にわたり学術研究や国際的な知識交換を支えてきました。

しかし、Gizmodoによると、この伝統あるシステムがトランプ政権の関税政策、特に800ドル未満の輸入品に対する免税措置の撤廃によって、予期せぬ大混乱に陥っています。

問題の核心は、貸し借りを仲介する配送業者にあります。

  • 関税処理の混乱: 国際的な配送業者は、販売目的ではない「貸し出し本」にどのように関税を適用すればよいか分からず、混乱しています。誰が、どのように関税を支払うのか、前例のない事態に対応できないのです。
  • 配送拒否: 事態の複雑さから、一部の海外配送業者は米国への書籍の発送を全面的に拒否するケースも出てきています。
  • 立ち往生する蔵書: 最も深刻なのは、関税が強化される前にアメリカの図書館が海外の図書館へ貸し出した本が、今になって返却できなくなっている事態です。本は税関で無期限に留め置かれたり、倉庫で「紛失」したりと、まさに”人質”ならぬ”本質”のような状態に陥っています。

ある大学図書館の担当者はGizmodoの取材に対し、「関税問題が起きる前に貸し出した我々の本を、今、相手の図書館が返送できないでいる。配送業者が米国への発送を拒否するか、関税の状況に対応できないと言っているからだ」と窮状を訴えています。


学術の進歩を妨げる「見えざる壁」

この問題は、単に図書館の蔵書が数冊返ってこない、というレベルの話ではありません。国際的な共同研究や学術の進歩そのものを妨げる「見えざる壁」として機能してしまっています。

これまで、世界中の研究者や学生は、図書館間相互貸借を通じて必要な文献をタイムリーに入手し、研究を進めてきました。しかし、この知のライフラインが滞ることで、研究の遅延や、場合によっては中断に追い込まれる可能性も出てきています。

印刷された書籍そのものは、表現の自由の観点から多くの関税リストから除外されています。しかし、物流の現場で起きている混乱は、結果的に本に高い関税をかけるのと同じか、それ以上に深刻な影響を及ぼしているのです。


意図せざる副作用が蝕む「知の共有」

今回の事態は、経済政策が、本来意図していなかった文化・学術分野にまで深刻な副作用をもたらす危険性を示しています。

図書館は、単に本を保管する場所ではありません。国内外の知識をつなぎ、共有することで、新たな発見やイノベーションを生み出す社会のインフラです。関税によってこのインフラの血流が滞ることは、長期的に見て社会全体にとって大きな損失となりかねません。


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タブレットやPCで活字を読むのも良いのですが、やはり紙の本でなければ得られない感覚というのはあると思います。
今回の記事については対岸の火事ではないと感じ、取り上げさせていただきました。

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