【2025年9月16日】 2022年11月の登場以来、世界中で急速に普及した対話型AI「ChatGPT」。その具体的な利用実態について、全米経済研究所(NBER)が発表した大規模な調査論文により、多くのユーザーが仕事の生産性向上ツールとしてだけでなく、日常生活の「相談相手」や「情報源」として活用している現実が明らかになりました。
調査によると、利用の7割以上が仕事とは無関係の個人的な目的であり、一般的なイメージとは異なる使われ方が主流となっていることが示されています。
ユーザー数は世界成人人口の1割に到達、利用者層も多様化
本論文は、2022年11月から2025年7月までのChatGPTの利用データを分析したものです。
その結果、週間アクティブユーザー数は7億人を超え、世界の成人人口の約10%に達していることが判明しました 。
利用者層にも変化が見られます。リリース当初は男性利用者が多数を占めていましたが、その差は徐々に縮小し、2025年6月時点では女性名の利用者がわずかに上回るまでに至っています 。
また、利用者の約半数を26歳未満の若年層が占めており、新しいテクノロジーが若い世代を中心に浸透している様子がうかがえます 。
地理的には、これまでIT技術の普及が遅れがちだった低・中所得国においても急速に利用が拡大しており、情報アクセス格差を埋めるツールとしての可能性も示唆されています 。
仕事よりプライベート? 利用目的の7割は「個人的な用事」
今回の調査で最も注目すべきは、ChatGPTの利用目的の内訳です。
一般的に「仕事の効率を上げるツール」と見なされがちですが、実際のデータはそのイメージを覆すものでした。
全体のメッセージのうち、
70%以上が仕事とは無関係の個人的な目的で利用されており、その割合は増加傾向にあることが確認されました 。
これには、趣味の情報を調べたり、旅行の計画を立てたり、日常的な疑問を解決したりといった多様な用途が含まれていると考えられます。
一方で、学歴が高く、高収入の専門職に就いているユーザーほど、仕事関連の目的で利用する割合が高いことも分かっており 、AIを生産性向上に直結させる層と、生活を豊かにするツールとして活用する層の二極化が進んでいる可能性があります。
最も多い用途は「文章作成」と「実用的なアドバイス」
では、ユーザーは具体的にどのようなタスクをChatGPTに依頼しているのでしょうか。
調査では、利用目的を分類し、そのトップ3が「実用的なガイダンス」「情報検索」「文章作成」であり、これらで全体の約80%を占めることが明らかになりました。
- 文章作成は、特に仕事での利用において40%以上を占める最も一般的なタスクでした 。
メールや報告書の作成・校正、文章の要約、翻訳など、コミュニケーションを補助する役割が期待されています。 - 実用的なガイダンスには、学習支援や個別指導、様々なトピックに関する「やり方」のアドバイス、アイデア出しなどが含まれ、日常生活における意思決定をサポートする「相談相手」としての役割を担っています。
- 一方で、AIの能力として注目されがちなコンピュータプログラミングの利用は全体の4.2% 、人間関係の悩み相談といった感情的なやり取りは1.9% と、比較的小さな割合に留まりました。
AIは「実行者」から「相談役」へ
本研究では、ユーザーの意図を「質問(Asking)」「実行(Doing)」の2つに分類する新しい分析も行われました。
- 実行(Doing): 「メールを書いて」「コードを生成して」など、具体的な成果物を生成させるタスク。
- 質問(Asking): 「〇〇について教えて」「どうすればいい?」など、情報やアドバイスを求めて意思決定の助けとする使い方。
分析の結果、全体の約半数を「質問」が占めており 、単なる作業代行者としてではなく、思考を整理し、より良い判断を下すための「アシスタント」や「相談役」としてChatGPTが活用されている実態が浮かび上がりました。
さらに、この「質問」型の利用は「実行」型の利用よりも満足度が高い傾向にあり、今後ますます主流になっていく可能性があります 。
今回の調査は、ChatGPTが単なる生産性向上ツールに留まらず、教育、意思決定、そして個人の日常生活に至るまで、社会のあらゆる側面に広く浸透し始めていることを示すものです。
仕事の未来を変えるだけでなく、私たちの暮らしそのものを豊かにするパートナーとしてのAIの姿が、データによって裏付けられた形となりました。

